「身体を整えて」から「動く」ことで「コンディショング、ライブパフォーマンス」を高め、快適な毎日を過ごせるように、セッション(手技×マシンピラティス)をご提供しています。

・本記事から得られるもの、理解できる事
〇「バランス」を改善する運動について理解できる

〇「バランス」を改善する機序について理解が深まる

それでは、さっそく解説していきます!

こんにちは、Basisの新田です。

 前回はバランスについて記事を書かせて頂きました。今回はその記事を深掘りするような形でバランスを改善する運動と機序について、書籍や論文を参考にしながら当施設で行っている運動についても解説していきたいと思います。
はじめに前回の記事で説明させて頂いた、バランスについて簡単にですが復習していきましょう。バランスとは様々な要素が複合することで構成された考え方であり、私自身が特に大事だと考えているのは、①骨・関節アライメント②姿勢反射(視覚・前庭覚)③バランス戦略④筋力であると解説させて頂きました。
そして上記で示した要素の中で、私たちが関わることの出来る領域は①以外の要素となります。これは前回の記事でも触れていますし、皆様も何となく理解できるのではないかと思いますが改めて復習しておきましょう。骨・関節アライメントは積み木を想像していただけると理解しやすいと思います。例えばこれからバランスを改善しようとしている方が、若年者なのか高齢者なのかによって、積み木に余裕がある状態で積まれているのかそうでないのかが決まってきます。
そして大前提として覚えておかなければいけないのは、私たちが手に力をどれだけ込めたとしても、「1度曲がってしまった骨は真っすぐに伸ばすことはできない」と言うことです。もし万が一そんなことが出来たとしても、それはいわゆる骨折という状態を引き起こしていると私は考えています。
ここまで書いた結果を見ると「高齢な方はバランスを改善する運動をしても意味がないってこと?」と考える方もいるかと思いますが、そんなことはありません。もちろん骨・関節アライメントはバランスを構成する重要な要素であると考えていますが、それ以外にも重要な要素はあります。
例えば②姿勢反射の要素を改善しようと思えば、視覚や前庭覚の能力が重要になってきます。前回は視覚と前庭覚について、簡単に解説させて頂きましたが今回は視覚について少し深掘りしてお伝え出来たらと思います。
まず視覚についてですが、視覚を構成するのは1.視力(物の形を見分ける能力)2.視野(視覚を広く見る能力)3.光覚(光を感じる能力)4.両眼視(立体的に物を見る能力)5.色覚(色を見分ける能力)6.調節力(遠方から近い物までを見るための調節をする能力)から構成されており、皆様が良く聞くことのある視力とは視覚を構成する1つの要素ということです。
ここまで視覚の要素について解説していきましたが、これだけを聞いても「結局、視覚を改善するにはどうすれば良いの?」という部分がピンと来ないのではないかと思います。現場で私たちが良く用いている方法は、視野や色覚を中心に運動を組み立てていくことが多いですし運動している最中にも即時的な変化が得られています。
それでは視覚を改善する具体的な運動例を説明していこうと思います。基本的に私たちの施設では、マシンピラティスを実施していますがその際に眼球運動を意識した動作を行います。例えば、以下のマシンピラティスの一例を見ていきましょう。

図1.ピラティスマシンでの運動場面
このような運動は皆様も1度は見たことがあるのではないでしょうか。例えばこの運動では右胸部~腰部にかけてストレッチをしたり、左の肩甲骨を意識したプッシュ動作を出来るようにしたりするなどと言った効果が見込めます。ですが、ここに眼球運動を追加することでさらに、運動の効果を高めることが出来ます。
例えば、この図では目線が床に向かっていると思います。もちろんこの図にある運動が悪いということでは無いですが、私がこの運動を指導する場合は右手を目で追いかけて貰いながら遠くへ伸ばしていくよう意識してもらうことが多いです。または左の手首と右手を交互に目線だけで移動して貰うような指導も良く使います。
そのような運動指導をすることで眼球運動を引き出すことが出来ます。この図を基にすると眼球運動は上下~左右の動きを引き出すことになりますし、自分が見える範囲(視野)で行うことで視覚への刺激が得られます。ここまでで眼球運動という言葉が何度か出てきましたが、これについて深掘りしていくとそれだけで1つの記事が出来上がるボリュームになってしまうので、簡易的な説明にさせて頂きます。
上記のような眼球運動を行うと「where経路」という脳への伝達経路を刺激することになります(例:テーブルにボールが置かれている→テーブルのどこにボールがあるのかを理解する)。このwhere経路は”空間視”に関わる情報処理を行うため、今回の内容でいえば両眼視・調節力の要素に関わってきます。さらに眼球運動を行うと前庭覚にも刺激が入力されるため、全身の筋出力向上や不要な筋緊張を低下させるという効果も見込めます。
もう1つ色覚を用いた運動の具体例を説明していこうと思います。図1の運動においては例えば青色と赤色の旗を私が持っているとして、青色を挙げた場合は右腕を上方向へ赤色を挙げた場合は左手に向かって腕を伸ばすなどのように指導するかもしれません。このように色覚を刺激すると身体の中で何が起こるのかを簡単に説明させて頂くと、「what経路」という脳への伝達経路を刺激することが出来ます(例:テーブルにボールが置かれている→テーブルのボールがどんな材質・形なのかどんな色なのかを理解する)。
このwhat経路は”物体視”に関わる情報処理を行うため、今回の内容でいえば色覚以外にも視力の要素に関わってきます。そして最後になりますがバランスを改善したい→視覚を刺激する運動が必要→眼球運動と色覚を刺激する→「where・what経路」を刺激する→バランスの改善につながると言う機序が成立する理由を解説していきます。
これらの経路を刺激して最終的に行き着く先は脳の前頭前野という領域を刺激することに繋がります。この前頭前野という領域は認知・運動・感覚・情動を制御する器官であり、「運動と思考の最高司令部」とも呼ばれ、行動の選択や実行を担っています。前頭前野にはwhere・what経路以外の領域からも様々な情報が届いており、その届いた情報を基にして運動計画(ここでは、どのように身体を動かすかを決定することだと考えてください)を作成していきます。
そして作成された運動計画が運動前野や補足運動野と呼ばれる「運動の執行部」まで情報が届けられた結果として、図1のような運動が私たちの目に見える結果として表れてきます。ここまでで何が言いたいかというと、適切な運動計画を作成するためには第1段階の認知情報をまとめる必要がある→しかし視覚が適切に働いていない(認知情報に誤りが生じる)→それを基に運動計画が作成される→不適切な運動計画からの運動を実施する→例えば片足立ちの時にバランスの取れない力の入れ方を選択するといった”負の連鎖”が生じます。
それでは今回の内容のまとめに入っていこうと思います。今回はバランスを改善する運動についてとその作用機序について解説させて頂きました。運動について書いているつもりがやはり作用機序も書いてしまう結果となり内容が盛りだくさんとなってしまいましたが、ここまで読んで頂いた皆様にはバランスを改善するための運動として、視覚がどのように関係しているのかを理解する1つの参考になればと思います。最後まで読んで頂きありがとうございました。

Basis~からだのメンテナンススタジオ~ 新田
参考引用文献
1) Ziva Mjcen Rosker, Miha Vodicar et al.: Relationship between Cervicocephalic Kinesthetic Sensibility Measured during Dynamic Unpredictable Head Movements and Eye Movement Control or Postural Balance in Neck Pain Patients.: Int J Environ Res Public Health.:2022 Jul;19(14).