「身体を整えて」から「動く」ことで「コンディショング、ライブパフォーマンス」を高め、快適な毎日を過ごせるように、セッション(手技×マシンピラティス)をご提供しています。

・本記事から得られるもの、理解できる事
〇「前庭機能」について理解できる

〇「前庭機能と視覚の関係性」について理解が深まる

それでは、さっそく解説していきます!

こんにちは、Basisの新田です。

 前回はバランスを改善する運動と機序について記事を書かせて頂きました。今回はその中でも前庭機能について説明していきたいと思います。今回の内容を理解し、前回の記事と組み合わせることでさらにバランスを改善する機序の理解が深まり、自身のコンディショニング向上にも繋げられるように記事を書いていきたいと思います。
はじめに前回の記事で説明させて頂いた内容を復習していきましょう。前回の記事ではバランスを改善する運動と機序の中でも視覚の重要性について深掘りさせて頂きました。特に視野・眼球運動や色覚を刺激するような運動が大事であり、当施設ではどのように運動を組み立てて実施しているのか、またそのような運動を行うことで身体の中でどのようなことが起こっているのかを機序から説明していきました。
それでは、いまから今回のメインである前庭機能について説明させて頂こうと思います。はじめに前庭機能を構成する要素は身体のどこに存在し、どのような役割を担っているかという部分を理解してきましょう。突然ですが皆様に1つ伺います、「皆さんの耳はどこについていますか」このように聞かれた時、返答に困る人はいないと思います。
答えから言ってしまうと前庭機能に関わる組織は耳の奥にあります。ですが、正式な名称は複雑ですのでそこも1つ1つ解説していければと思います。耳の奥にあると書かせて頂きましたが、耳というのは身体の内部に向かって広がった組織であり表面に見えている部分だけが耳というわけではないのです。
まず表面に見えている耳~鼓膜までの部分を「外耳」、鼓膜~耳小骨(鼓膜からの振動を伝える骨)までの部分を「中耳」、それより深部の部分を「内耳」と呼びます。そして、内耳は蝸牛・耳石器・三半規管の3つで構成されています。その中でも蝸牛は聴覚をつかさどり、耳石器と三半規管は身体のバランスの維持や身体が動いた際に視線を維持する役割を果たしています。
つまり今回の前庭機能を理解するためには、蝸牛を除いた三半規管と耳石器を中心に考えていくと良さそうですね。それではさっそく、三半規管について書籍も基にして解説していこうと思います。
図1.三半規管と蝸牛

三半規管は前半規管・外側半規管・後半器官の3つからなり、それぞれが異なる3次元空間で配置され、身体の回転加速度を感知しています。そして回転加速度を伝えているのは、クプラと呼ばれるゼリー状の構造物であり、これがどれだけ傾いたかを有毛細胞が感知することで情報を伝えています。後ほど解説しますが、このクプラは内リンパ液と呼ばれるプールに浸かった状態で存在しています。
次に耳石器について解説していこうと思います。耳石器には卵形嚢・球形嚢があり、こちらは直線加速度を検知しています。まず卵形嚢は水平方向への直線加速度や頭部の傾きを検知しています。そして球形嚢は垂直方向への直線速度を検知しています。具体例として卵形嚢はサイドステップを想像すると分かりやすいかと思います。球形嚢については、エレベーターの中にいて上下へ移動している場面を考えると理解しやすいですね。
そしてもう1つ大事な動きとして、前転・後転など前後方向への移動時においては卵形嚢と球形嚢の両方が働くことが分かっています。また耳石器がどのようにして直線加速度を伝えているかと言うと、耳石と呼ばれる炭酸カルシウムの結晶が有毛細胞を刺激することで情報を伝えています。三半規管と違う部分で言えば耳石にも内リンパは存在していますがゼラチン状の平衡砂膜に覆われた状態であり、こちらはプールに浮かんだビート板を想像すると良いかと思います。
ここまでの解説で有毛細胞という用語が何度か登場したかと思いますので、こちらについても解説していこうと思います。有毛細胞とは前庭器の感覚細胞であり、1本の動毛と50~100本の不動毛という組織で構成されています(イメージは長さの違う髪の毛で動毛の方が長いです)。そして、不動毛が偏移することによって動毛との移動量に差が生じ、その情報を電気信号に変換して前庭神経に情報を伝達していくという流れになります。
以上を簡単にまとめますと、①三半規管と耳石器は有毛細胞を介して得られた情報を、電気信号に変えて伝達している②その情報を伝えている物は、クプラ・耳石である③使用される状況が頭の回転・重力・加速度を感じる場面という違いがある。
ここまでの内容で前庭器を刺激するには、頭を動かすことや上下・左右の移動を行うことが効果的であることが理解出来るかと思います。ですが前庭の機能はこれだけでなく、様々な反射機能により眼球運動をコントロールしたり、身体のバランスを維持したりする機能も存在するため、いまからは前庭が持っている反射機能について説明していこうと思います。
はじめに前庭動眼反射と呼ばれる反射について説明していこうと思います。この反射は眼球運動をコントロールし、頭を動かした際に物がぶれて見える(動揺視)ことを防ぐ機能が重要な役割になります。反射というぐらいなので私たちが身体を動かしたとき、適切な場面に合わせて自動的にこの機能が使われるということです。
この反射が活躍するのは頭部を回転させたとき、つまり三半規管が働いたときになります。三半規管が頭部の回転を感知すると眼球を頭部の動きと反対の方向に動かすことで動揺視を防ぐということです。それぞれ前半規管-前方に回転した時、後半規管-後方に回転した時、外側半規管-左右に頭部が回転した時と反応が強く出る動きに差があります。正確にはこれに斜めの運動方向が加わるため少し複雑になりますが、上記の運動方向を押さえておくだけでも十分理解が深まるかと思います。
具体例を1つだけ紹介させて頂くと、首を右に回す→右外側半規管が反応→右前庭神経核の内側核を通り→反対側の外転神経核と同側の動眼神経核へ作用→左の眼を外に動かす筋肉+右の眼を内側に動かす筋肉が働くという反応が瞬間的に生じており、前庭機能は視覚とも密接な関係があることも理解できるかと思います。
次に前庭脊髄反射と呼ばれる反射について説明していこうと思います。この反射は身体のバランス維持や空間認知に関与したりなどの機能を有しています。これには耳石器・三半規管の両方がそれぞれ関与しており、耳石器からの情報を受け取り首や四肢・体幹の伸筋(肘を伸ばす力と背筋をイメージして下さい)に情報を伝達する外側前庭脊髄路という経路と三半規管からの情報を受け取り、地面に対して首を平衡に保つ役割(この反射自体を前庭頸反射と呼ぶこともあります)がある内側前庭脊髄路の2つを合わせて前庭脊髄反射は構成されています。
先ほどの前庭動眼反射と前庭脊髄反射の内側前庭脊髄路ではどちらも三半規管が作用しており、この2つはその反応を受け取る中継地点(前庭神経核の内側核)が同じ場所を通ります。そして前庭脊髄反射の外側前庭脊髄路では前庭神経核の外側核を通るため、前庭脊髄反射と同じ反射の名前をしていますが、機能的にそれぞれ違いが生じているわけですね。
そして最後に論文から前庭機能を考察していきましょう。今回の論文では、ロボットとヒトの姿勢制御の違いを考察されていました。ほとんどのロボットは前庭系を使用せず圧力中心制御(足裏にどれぐらいの重さがかかっているかを感知する機能です)によって直立姿勢を安定させる物が大多数でした。皆様も何となくイメージ出来るかと思いますが、人間に当たる膝部分を軽く曲げて立つ、左右に身体を大きく揺らしながら歩くそして転んで1度転んでしまえば、自分で起き上がることが出来ないといったロボットが中心だったわけです。
この論文ではロボットに前庭センサーを追加するとヒトに近いバランス制御となり、姿勢安定性・動作性が向上したと紹介されています。最近の人型ロボットでは立位バランスだけでなく、歩行においても私たちと変わらないレベルでの身体制御が可能な物が開発されていますので、高所での危険な作業をロボットが受け持つような時代も来るのではないかと個人的には楽しみに感じています。
いかがでしたでしょうか。今回は前庭機能について解説させて頂きました。前回の「バランスを改善する運動と機序について」で書かせて頂いた内容と併せて記事を読んで頂けると自身のコンディショニング向上にも繋がるように書かせて頂いたので、そちらの記事もぜひ読んで頂けると幸いです。今回も長い記事になってしまいましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。

Basis~からだのメンテナンススタジオ~ 新田

参考引用文献
1)Thomas Mergner, Georg Schweigart et al.: Vestibular humanoid postural control.: J Physiol Paris.: 2009 Sep-Dec;103(3-5).
2)浅井 友詞 岩崎 真一:前庭リハビリテーション めまい・平衡障害に対するアプローチ第2版:三輪書店:pp.2-7.:2023年.