「肩のつまりについて」

・本記事から得られるもの、理解できる事
〇「肩のつまり」について、ある程度理解できる

〇「肩甲骨の動き」について、ある程度理解できる

〇「肩痛」を予防する方法が分かる

それでは、さっそく解説していきます!

こんにちは、Basisの新田です。

 今回は以前書かせて頂いた肩こりの記事を深掘りする形で肩のつまりに関して、皆様に少しでも分かりやすく伝わるように記事を書いていけたらと思います。今回も論文やデータを参考にしながら、肩のつまりに肩甲骨がどのように関係しているのかを共有していきたいと思います。
 まず、前回の肩こりの記事でも触れた内容を軽く復習していきましょう。肩こりの記事では①筋肉の内圧上昇+神経の絞扼・伸張性低下が肩こりに関係することを書かせていただきました。そして前回の記事では詳細な筋肉までは書いていませんでしたが、今回の記事ではその部分も深掘りしていこうと思います。
肩こりに関係する筋肉は僧帽筋(特に上部線維)、肩甲挙筋、大・小菱形筋、前鋸筋が代表的なものとして挙げられます。その中でも僧帽筋の内圧上昇は肩こりをはじめとして、症状が酷くなると肩のつまり感や頭痛まで生じることがあります。そして僧帽筋の内圧上昇を引き起こす要因として、肩甲骨の動き方が関係してきます。
肩こりの記事でも解説している、デスクワークで同じ姿勢を取り続けることを例にして考えてみますと、パソコンを使用した事務作業時の姿勢といえば下図のような姿勢を皆さん思い浮かべると思います。

図1.デスクワーク時の姿勢

このような姿勢を解剖学的に紐解いていくと、骨盤後傾→腰椎屈曲→胸椎屈曲→肩甲骨外転・挙上→頸部前突という姿勢になります。専門的な言葉が多く少し難しく感じてしまいますが、この姿勢を見て「これが良い姿勢だ!」と思う人は少ないと思います。肩甲骨を中心に考えていくと、上記の姿勢を続けることで肩甲骨は上+外方向に引っ張られ続けて、この位置から動かない時間が長くなります。そうすると、私たちの身体は「普段からこの位置にいるから、動く必要がないなー」と誤った身体の状態を記憶してしまい、この筋肉を使う方法を忘れてしまいます。
本来、私たちの身体は適切な筋肉の収縮・弛緩を行うことで、筋肉の中にある血管(動脈・静脈)や神経が滑走し、筋内圧を適切な状態に保つことができます。ですが上記の状態になってしまうと、僧帽筋を使う方法が分からなくなる→肩甲骨を適切な位置に動かす方法が分からなくなる→肩こりが起きる→肩のつまりが起きる→慢性的な頭痛が起きる・・・このような負の連鎖が生じる可能性があります。
このような状態に陥ってしまった場合の改善方法は、究極1つだけです。「適切な方向に筋肉を動かす方法を再学習する」これにつきます。言葉でいうのは簡単ですが、この状態を改善するのはなかなか、簡単ではありません。

突然ですがこの記事を読んでいる皆さんは、まず肩甲骨がどれぐらいの大きさでどんな方向に動かせるものか知っていますか。まず大前提として、私たちの身体は部位ごとに認識する力に差があります。
図2.ホムンクルスの小人

これはホムンクルスの小人と言われる、私たちの身体がどのように認識されているのかをカナダの脳神経外科医であった、ペンフィールドさんが調べたものになります。
この研究結果は1950年代に発表されているため大昔のデータですが、実際に意識のある人に対して脳外科手術中に電気信号を与えて、「右手にしびれがきました」「今度は左足にしびれがきています」などを繰り返して調べられたという経緯があるため、現代の医学においても相当の信頼がおかれたデータとなります。(もちろん現在は倫理的な背景からこのような研究ができないこともあって、非常に有意義なデータと言われています。ちなみに私は怖すぎて、何があってもこのような研究には協力できない自信があります)
話を戻すと肩甲骨は身体の後ろ側にあって、まず認識しにくいことが挙げられます。そして大きさは手のひら大(手首~中指の先端)程度という構造をしており、上下・左右への移動+回転を複雑に絡めることで8方向に移動することも出来るという、とにかく特徴的な骨の塊であると言えます。
さらに肩甲骨の位置異常がある人と正常な人をグループに分けて、肩甲骨の動きの差を研究した文献によると、「肩甲骨の上方回旋」と「鎖骨の挙上」に差が出ていることが分かっています。今回の記事では鎖骨の話まで深掘りすると大変なボリュームになってしまうため、割愛させていただきますが、肩甲骨と鎖骨は関節を形成しているため片方が上手く動かないと、もう片方にも影響が出ると理解していただくと良いかと思います。
ここまで聞くと「肩甲骨がそんないろんな方向に動くことは知らなかった」「そんな大きな骨だったの」などいままで肩甲骨に対して持っていたイメージが変わってきますよね。
内容が盛りだくさんになってきたため、簡単にここまでの内容をまとめますと①肩のつまりには僧帽筋が主に関係してくるよ②それを改善するにはやっぱり運動が大事だよ③でも背中側の筋肉や骨は自分で意識しにくい部分だよということが分かりました。「でもちょっと待って」「運動が大事って簡単にいうけど結局、自分でどんな運動をすればいいの」と皆さんの中で疑問がどんどんと沸いて出てきていることでしょう。ここからは、文献を元にどのような運動が効果的なのかを解説していきましょう。
首に痛みのある患者40人に対して、肩甲骨と胸椎を安定させるエクササイズプログラムのみを施行するグループと僧帽筋下部線維のエクササイズプログラムも追加施行するグループの2つに分けて効果を検討した文献によると、4週間後(3回/週で介入実施)には両グループとも痛みや姿勢の変化が得られましたが、僧帽筋下部線維の収縮練習を追加で実施したグループの方が痛みと姿勢の変化が大きく、さらに筋肉の厚さと収縮機能も優位に改善が見られたと報告されています。

つまり、みなさんがお家で運動する際には下部僧帽筋を意識した運動を行うことが効果的だと言えます。その1例として以下の運動が論文の中で紹介されたものになります。
図3.肩甲骨と胸椎の安定化運動プログラム


図4.僧帽筋下部を強化するエクササイズプログラム

上記のような運動は私たちも現場で行うことがあり、非常に効果的な運動になります。ですが、実際に現場でこのような運動を実施しても最初から変化を実感できる人が少ないのも事実です。これは、先ほども解説しているのですが現代の生活は背中側を意識して動かす機会が少なく、それにともなってデスクワークも増えたことでさらに肩甲骨を動かせない状態になっています。そのため運動の形は取れたとしても、僧帽筋下部以外の筋肉が代償的に動いてしまい効果的な運動にならないことが多いです。
特に今回のような運動を実施する際には、三角筋や多裂筋などの筋肉が代償的に働くことが多く、「肩甲骨よりも肩の後ろが突っ張る感じがします」「腰にしか力が入りません」などの相談は現場でセッションを提供している際に、良く聞かれますのでこの記事を読んでいる皆さんは肩甲骨付近に負担がかかる感覚がつかめるように運動してみてください。
 今回もボリュームのある記事になってしまいましたが、ここまで読んで頂いた皆様の肩つまりが少しでも軽減する参考になればと思います。最後まで読んで頂きありがとうございました。失礼いたします。

Basis~からだのメンテナンススタジオ~ 新田

参考引用文献
1) Angela R Tate, Philip McClure et al: A Clinical Method for Identifying Scapular Dyskinesis, Part 2: Validity.: Journal of Athletic Training.: 2009 Mar-Apr;44(2).: 165-173.
2)Sam-Ho Park, Myung-Mo Lee: Effects of Lower Trapezius Strengthening Exercises on Pain, Dysfunction, Posture Alignment, Muscle Thickness and Contraction Rate in Patients with Neck Pain; Randomized Controlled Trial.: Med Sci Monit.: 2020 Mar 23.