「身体を整えて」から「動く」ことで「コンディショング、ライブパフォーマンス」を高め、快適な毎日を過ごせるように、セッション(手技×マシンピラティス)をご提供しています。
・本記事から得られるもの、理解できる事
〇前鋸筋の機能が理解できる
〇「肩こり」の原因が一部理解できる
今回はタイトルの通りになりますが、肩こりと前鋸筋の関係について少しでも分かりやすく伝わるように記事を書いていけたらと思います。少し前の記事になりますが、「肩こりについて」「肩のつまりについて」という記事でも前鋸筋の名前は挙がっています。
肩こりには様々な要素が関係していることを解説してきましたが、今回は前鋸筋について論文やデータを参考にしながら深掘りをしていきたいと思います。
<そもそも肩こりとは?>
それでは、「肩こりについて」の内容になりますが軽く復習してみましょう。肩こり(Stiff neck and shoulder)というのは医学大辞典によると、原因を問わず僧帽筋を中心とした肩甲帯筋群のうっ血・浮腫により生じた同部のこり、はり、こわばり、重圧感、痛みなどの総称とされていると表記されています。
この表記を見ると僧帽筋が最も関係性が深いように見えますが、私が現場で様々な方を対応している中では、僧帽筋と同じかそれ以上に前鋸筋が関与しているケースが多いように感じられます。ではなぜ前鋸筋がそこまで影響するのか、次の項目では前鋸筋の起始~停止や支配神経について解説していきます。
<前鋸筋とは?>
それでは1つの書籍から前鋸筋の起始~停止や支配神経を紹介させて頂きます。まず前鋸筋という名前の由来ですが、肋骨を起始とする筋肉の形がノコギリの歯に似ていることからノコギリを意味するラテン語の”serrare”から由来しています。そして前鋸筋は第1肋骨~第9肋骨を起始として、肩甲骨の内側縁へ停止し支配神経は長胸神経が主ですが時折、肩甲背神経も神経の枝を出すことがあります。ここまで聞いただけでは全く分からないと思いますので、少しずつ内容をかみ砕いていきましょう。
上記のように第1~9肋骨まで広く起始を持っている前鋸筋は、それぞれ上部・中部・下部という線維に分けて考えられています。上部は第1、2肋骨と外側肋間筋膜から起こり肩甲骨の上角近くの肩甲骨内側縁へ停止します。続いて中部線維は第2~4肋骨から起こり、上角・下角を除いた肩甲骨内側縁に停止します。最後に下部線維は第5~9肋骨から起こり、肩甲骨の下角と内側縁下方に停止します。
図1.前鋸筋の構造(模式図)
<前鋸筋の機能・肩こりとの関係>
ここからは前鋸筋の機能について解説していきたいと思います。前鋸筋の機能で重要なのは、肩甲骨を胸壁に固定することと、肩甲骨を前方へ動かすという2つの機能を有しています。さらに、肩甲骨が固定されている時には肋骨を引き上げることによって胸郭を広げ呼吸の吸気に作用することも出来ます。
これだけでは非常に分かりにくいと思いますので、順に説明していきます。はじめに肩甲骨という骨は、肩鎖関節という肩甲骨と鎖骨で関節が構成されています。ですが、これはあくまで身体の前方で形成されています。身体の後方では、肩甲骨は今回の前鋸筋を中心とした軟部組織によって肋骨の上に乗っかるように存在しています。
つまり肩甲骨の可動性は、脊柱~肋骨がどのような状態で存在しているのか+肩甲骨に付着する軟部組織の柔軟性に依存するという特性があるということです。そして肩こりに強く影響すると考えられているのは、前鋸筋の中でも上部線維であると考えられています。その理由の1つとして、前鋸筋上部の動き方と支配神経との関係性が挙げられます。
前鋸筋上部線維の動きは走行から想像できますが、肩甲骨を前方に傾斜させる作用が主体です。この肩甲骨を純粋に前方へ傾ける動きは前鋸筋上部線維特有の作用となります。他にも肩甲骨を前方に傾斜する筋肉として小胸筋も代表的な筋肉ですが、小胸筋は走行の影響で肩甲骨の外転や下方回旋などの別の動きも生じることになります。つまり肩甲骨の純粋な前方傾斜を1つの筋肉で担っているとも考えることが出来ます。
そして前鋸筋上部の支配神経は先ほどの項目から繰り返しになりますが、長胸神経が主体とされ時折、肩甲背神経が枝を伸ばしていることもあるとされています。この2つの神経は首の筋肉を貫き前方・後方にそれぞれ走行し、長胸神経は僧帽筋と前鋸筋上部線維の間を通過し肩甲背神経は僧帽筋と肩甲挙筋の間を通過するという構造になります。このように筋内を2度通過する特性があることで、同じ姿勢を取り続ける+身体を動かさないor過剰に動かす(1つの筋肉で肩甲骨の動きを担当しなければならない)というストレスを受け続けると筋肉の緊張が亢進し、肩こりに繋がります。
最後に論文からも前鋸筋における影響を解説していきます。1つの論文では28名の参加者を対象として、腕を繰り返し上げ下げするタスクを実行し前鋸筋を疲労させ3つの筋肉の筋活動を調べていました。結論として、タスク後は上部僧帽筋のみ活性化レベルが高く前鋸筋/下部僧帽筋の活性化比は変化していました。このことから、上部僧帽筋が活性することは他の肩の筋肉の疲労を代償する可能性があり、前鋸筋のトレーニングにより肩の症状の予防に効果がある可能性を示唆していました。
<まとめ>
いかがでしたでしょうか。今回は肩こりと前鋸筋の関係について書かせて頂きました。肩こり1つ理解するにも小難しい内容になってしまいますが、前鋸筋の走行や機能を理解すると、どのようにすれば痛みを軽減することが出来るのかも見えてきますのでお時間がありましたら、繰り返し読み返して頂ければと思います。
もし今回の記事を読んで、「痛みを軽減する方法も知りたい」という方がいらっしゃいましたら、バックナンバーである「五十肩/肩関節周囲炎に効果的な運動とは」や「ピラティスにおけるエレファントとは」などに運動方法が記載されていますので、そちらの記事も目を通して頂けると幸いです。
この記事が少しでも肩こりと前鋸筋の関係性を理解する手助けになればと思います。最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考引用文献
1)中村 耕三(監訳),河野 博隆 他(訳者), 運動器臨床解剖アトラス, 医学書院 :pp.124,170, 2013.
2)Kimberly Szucs, Anand Navalgund et al: Scapular muscle activation and co-activation following a fatigue task: Medical & Biological Engineering & Computing : 2009 April: Volume 47: Special Issue: 487-495.