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・本記事から得られるもの、理解できる事
〇菱形筋の機能が理解できる
〇「肩こり」の原因が一部理解できる
今回はタイトルの通りになりますが、肩こりと菱形筋の関係について少しでも分かりやすく伝わるように記事を書いていけたらと思います。前提としてかなり前の記事になりますが、「肩こりについて」や「肩こりと前鋸筋の関係について」という記事も併せて読んで頂けると、今回の菱形筋についてさらに理解が深まるかと思いますので、お時間がある方は是非そちらの記事も読んで頂ければと思います。
上記の記事においても、肩こりは様々な要素が関係していることを解説していますが、その中でも今回は菱形筋について書籍を参考にしながら深掘りをしていきたいと思います。では次の項目から、まず肩こりとは何なのかという基本的な部分から解説を進めていこうと思います。
<そもそも肩こりとは?>
それでは、「肩こりについて」の内容になりますが軽く復習していきましょう。肩こり(Stiff neck and shoulder)というのは医学大辞典によると、原因を問わず僧帽筋を中心とした肩甲帯筋群のうっ血・浮腫により生じた同部のこり、はり、こわばり、重圧感、痛みなどの総称とされていると表記されています。
この表現を見ると僧帽筋が最も関係性が深いように見えますが、実際には前鋸筋も深く関係していますし、今回題材としている菱形筋も強く関係しています。ではなぜ菱形筋がそこまで影響するのかを理解するために、次の項目では菱形筋の起始~停止や支配神経と作用について解説していきます。
<菱形筋とは?>
それでは1つの書籍から菱形筋の起始~停止や支配神経を紹介させて頂きます。まず菱形筋とは、大/小菱形筋の2つが存在しています。小菱形筋は第6頚椎と第7頚椎を起始として、肩甲骨内側縁(肩甲棘より上方の領域)へ停止しており、大菱形筋は第1胸椎~第4胸椎を起始として肩甲骨内側縁(肩甲棘より下方の領域)へ停止しています。そしてこの筋群を支配する神経は肩甲背神経が主体となります。
1つの書籍によると、この筋肉は薄く菱形をしていることから、このような名称が付けられたと記載されています。そして、通常は一塊になっているため大菱形筋と小菱形筋を区別しにくいとも書かれています。人体での主な作用は、肩甲骨を挙上・内転/下方回旋方向へ動かす作用があります。ここからは私見を多分に含みますが、菱形筋群には頚椎・胸椎の回旋作用もあるのではないかと考えています。
以下の図1は大/小菱形筋の走行模式図になりますが、先ほど挙げた作用(肩甲骨の挙上・内転/下方回旋)は脊柱が固定点になって筋肉が収縮した際に生じる運動になります。つまり、逆に肩甲骨が固定点になった場合は走行から推測すると、片側の筋肉が収縮すれば頚椎や胸椎を回旋する運動(右が収縮すれば、左へ向きを変えるように)+両側が同時に収縮を起こせば頚椎・胸椎の伸展動作も引き起こせるのではと考えられます。解剖学の書物には、脊柱が固定点になる運動しか記載されていないため、あくまで私自身の私見になりますので、上記運動への理解は1つの参考程度にして頂ければと思います。

図1.菱形筋の構造(模式図)
そして今回の菱形筋を理解する上で大切なのは、筋肉の栄養血管(いわゆる血流です)がどのように走行しているかが重要となります。今回の菱形筋に関与する栄養血管として、”頸横動脈”があります。この頸横動脈は浅枝と深枝の2つに分岐し、菱形筋に関係するのは特に深枝であり、深枝には先ほど紹介した肩甲背神経が伴行しています。
別の書籍を参考にさせて頂きますと、その書籍では肩こり群と対照群にそれぞれ、①頸部を伸展する(上を見る動作)②肩をすくめる③肩甲骨を外転するという、3種類の等尺性運動を行った後、エコーを使用して頸横動脈の浅枝と深枝の血管抵抗を調べています。結果は、浅枝に比べて深枝の末梢血管抵抗が増大していたと報告されています。
つまり、血管の抵抗が増大する≒血流が低下していることを示しており、深枝が栄養している菱形筋群が影響を受けると考えられますね。ここまでで菱形筋の基礎について理解が深まったと思いますので、次の項目からは先ほどの血流や筋肉・神経の走行を絡めながら、菱形筋が肩こりに関係する理由を深掘りしていこうと思います。
<菱形筋と肩こりの関係>
それではこの項目からは、菱形筋がどのようにして肩こりを引き起こしてしまう原因になるのかを解説していきたいと思います。まず血流を中心に考えてみると、先ほども軽く記載している、頸横動脈の深枝が影響しそうだと皆さんも理解できているかと思います。ここではさらに深掘りとして、その他の周囲組織も併せて考えていきましょう。
頸横動脈の周囲には線維性脂肪組織と呼ばれる、結合組織がシート状に広がっています。このような脂肪組織が豊富に存在する部分は、隣接する筋肉や血管・神経の動きや滑動を容易にし、筋ポンプの作用を高めて特に静脈血の循環を促進すると考えられています。
つまり菱形筋群が収縮~弛緩できなければ、筋ポンプ作用により血管・神経を含めた還流が得られず、持続的な等尺性収縮(腕相撲でピクリとも動かない状態をイメージして下さい)が強制されることで肩こりを生じることになります。さらにはその状態が継続すると、筋ポンプの低下→血液の環流が低下→肩こりが起こる→さらに筋ポンプ作用が低下する・・・という、負のサイクルが生まれてしまうことも考えられますね。
以上のことから菱形筋群の働きが低下すると、肩こりに繋がることが徐々に理解出来てきたかと思います。今回の記事では菱形筋群を中心に考えてきましたが、菱形筋と前鋸筋は切っても切れない関係があるので、その部分も絡めながらさらに解説を進めていきます。実は菱形筋と肩甲挙筋は腱膜を介して、前鋸筋と一体となっていることが分かってきています。つまり、菱形筋と前鋸筋が協働することで肩甲骨を胸郭に引きつける力が増幅されており、どちらか一方でも筋力/機能低下を引き起こすと、両方とも影響があると考えられます。
例えば、私が現場で相談される内容として「肩こりに良いって聞いて、肩甲骨を寄せる運動をしています」と言うことが良く聞かれます。この運動自体は菱形筋群を収縮する運動として正しい運動なのですが、前鋸筋とも協働しなければいけないという事実を無視しているため、これだけで肩こりは軽減しにくいと私自身は考えています。
以上の事を説明するために、最近の私の記事ではほぼ登場する単語となりますが、オープンシザースシンドロームの傾向がある方を想像しながら、上記の現象を再考していきましょう。オープンシザースシンドロームの傾向があると、上半身は相対的に”巻き肩”に近い状態となります。つまり胸椎後彎位が強制されることで、菱形筋群と前鋸筋は過剰に伸張された状態となっています。この状態では、対象とした筋肉は適切な方向へ収縮することが出来ず過緊張状態となります。
そのため、まず初めに過緊張状態を改善する必要がありますし、筋肉の収縮方向が適正化されなければ筋ポンプ作用も得られず、むしろ更なる過緊張状態を引き起こしてしまい、肩こりを良くしたくて運動を頑張っているのに、肩こりが悪化してしまうということも考えられます。
ここまでの内容をまとめると、まず大前提として「菱形筋が働きやすい状態になっているか」という観点が非常に重要であり、長らく肩こりで悩んでいる人は脊柱起立筋群を初めとした、体幹部分も運動を通じて緊張を抑制する必要があると考えられます。そして、身体全体の過剰な緊張状態が改善されると、必然的に菱形筋群と前鋸筋が協働出来る土台が確保されてきます。最後にその土台がある所へ、肩こりに効果的な運動を重ねていくという順序を守って進めてみると、だんだん肩こりが改善する所まで落とし込めたのではないかと思います。
以上で今回の肩こりと菱形筋の関係についての解説を終了したいと思います。菱形筋を中心に書いてきましたが、実際には前鋸筋も深く関係しますし単独の筋肉を改善しただけでは、慢性的な肩こりは改善出来ないことも理解出来たのではないかと思います。以下には今回の記事の振り返りを記載していますので、お時間のある方は是非そちらもご一読して頂ければ幸いです。今回も少し難しい内容になってしまいましたが、繰り返し読み込んでみて下さい。それではここでいったん失礼いたします。
<まとめ>
いかがでしたでしょうか。今回は肩こりと菱形筋の関係について書かせて頂きました。途中で”また”前鋸筋の名前が出てきたりして、肩こりという現象を1つ理解するにも大変な苦労があると分かっていただけたかと思います。今回の記事を通して、菱形筋の走行や機能を理解すると、どのようにすれば痛みを軽減することが出来るのかもおぼろげに見えてくると思いますので、お時間がある時に何度か読み返して頂ければと思います。
もし今回の記事を読んで、「肩こりに効く運動を知りたい」「折角なら前鋸筋についても理解を深めたい」という方がいらっしゃいましたら、バックナンバーである「五十肩/肩関節周囲炎に効果的な運動とは」や「肩こりと前鋸筋の関係について」などに効果的なエクササイズと前鋸筋の理解が深まるような内容を記載していますので、そちらの記事も目を通して頂けると幸いです。
この記事が少しでも肩こりと菱形筋の関係性を理解する手助けになればと思います。最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考引用文献
1)中村 耕三(監訳),河野 博隆 他(訳者), 運動器臨床解剖アトラス, 医学書院 :pp.121-123,2013.
2)北村 清一郎(監修),工藤 慎太郎(編集),運動療法その前に!運動器の臨床解剖アトラス,医学書院:pp.6-7,13-17,2022.
